人魚の恋

DVDで『スプラッシュ『を観た。1984年の作品で、まだ28歳のトム・ハンクスが笑ってしまうほど若い。監督は、『バックドラフト』や『アポロ13』『ダヴィンチ・コード』などを撮ったロン・ハワード。彼は、『アメリカン・グラフィティ』で優等生を演じたが、その後、激しく禿げた......ためでもないだろうが、俳優から監督に転向して数々の良い映画を撮っている。

『スプラッシュ』を観るのは、たしか3度目だと思う。ロマンティック・ラブコメディと言ってしまえば、確かにそうだが、妙に切なく思えるのはなぜだろう。少年の頃、海で溺れたアラン(トム・ハンクス)を人魚(ダリル・ハンナ)が助ける。助けられたアランは、彼女が人魚だとは知らない。そして、アランに恋してしまった人魚は、やがて人間に姿を変えてニューヨークに現われる。

ここが笑える場面なのだが、海から上がってくるのは自由の女神のある小島。ガイドが「この像は、裸のフランス女で・・・・・・」などと解説しているところへ、全裸の人魚が登場する。警官が「ここは西海岸じゃない」と保護すると、群衆は激しいブーイング。さすがにアメリカの映画だと笑った。そして、再会した人魚とアランは、ごく自然に愛し合うようになる。もっとも、この時、アランは彼女が人魚であることも、かつて助けてくれたことも知らない。

観ていて切なく感じるのは、アンデルセンの『人魚姫』を連想するからだろう。王子に恋をした人魚姫が、声と引き換えに人間にしてもらうが、王子との恋を成就することができず、人魚に戻ることができない。戻りたければ、方法は1つだけ。王子を殺すこと。眠っている王子の前で剣を構えた人魚姫は、どうしても愛する王子を殺せず、「いっそ、私が水の泡となって消えましょう」

その切ない恋物語が、「スプラッシュ」の背景に自然に感じられる。だが、さすがにハリウッド映画だ。人魚は捕まり、水槽で保護観察されるのだが、アランが奪い去って海に逃がす。去っていく人魚を見て、それまでのわだかまりが一瞬にして消えたアランが「待って、ぼくも行くよ」。本当は泳げないのに海に飛び込んでしまう。ニューヨーク市警の捜査ダイバーが何人もヘリから海に飛び込み彼らを捕まえようとするが、そこは海の中、人魚の方が早いし強いのだ。アランを引っぱって沖へと逃げていく人魚、泳げないはずのアランも楽々と進んでいく。しかも、一度も水面に上がって呼吸をしない。

そんなバカなぁ、とは思うのだけれど、不思議に許せてしまう。おとぎ話のような恋物語があっても、いいじゃないか。なにより、現代社会では失われてしまった、あるいは絶滅の危機に瀕している「ひたむきに愛する」という姿勢が、なんの衒いもなく、ごまかしもなく、自然に描かれている。傷つくのが怖いからとか、何かが不安だからとか、いろいろと留保の理由をつけては中途半端な愛し方しかできなくなっている現代人に、根源的な異議申し立てをされているようにも感じるのは、私だけだろうか。

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